「わたしが、陽平先生のこと、守りたいの」
わたしに勝ち目などほんの1ミリもない。
先生はいつか、ふっとわたしの前から消えてしまう。
なんの根拠もなかったその予感が、いま、たしかな確信へ変わっていく。
――きっとこの人が、先生を連れ去ってしまうのだろう。
どこか、遠い場所へ。
誰も、なにも、先生を傷つけない、平穏な世界へ。
好きだとか、愛しているとか、そんなふうに言われるよりもよっぽど、深い、深い、愛の言葉だと思った。
“守りたい”
それはたぶん、わたしには、一生かかっても言えないせりふだ。
「外、すっごく寒いと思うから、陽平先生のこと呼び戻してくるね」
いきなり明るい口調でそう言った彼女が車から出ていき、雨をよけながら駆け足で先生のもとへ行く。
降り注ぐ冷たいしずくから守るように、先生が彼女を黒い傘の内側へ迎え入れる。
その光景を、なんだか他人事のように見ていた。



