「眼鏡してるほうの先生は、苦しさと闘うことをやめるために作った、逃げ場所なんだって思ってたから。それでね、それをね、言っちゃったの、本人に。陽平先生は弱い人だね、って。
……最低だよね」
クリスマスの日、自分のことを弱い人間だと言った先生のこと、唐突に思い出した。
好きですって伝えたとき、どっちの自分が好きなのか、と目を伏せて訊ねた先生のこと、思い出した。
ひょっとしたらこの女性は、先生にとって、ものすごく大きな意味をもつ存在なのかもしれない。
――あの女物の腕時計が、脳裏によぎった。
「ずっと、そのことを本当にずっと、後悔してて……、でも自分が大人になるにつれて、わかってきたんだ。陽平先生は弱いんじゃなくて、すごく強い人なんだって。陽平先生は、闘うことをやめないために、もうひとりの自分を作成したんだって」
ぽとん、と。彼女の美しい瞳が、涙の粒を両方からひとつずつ落とした。
「わたし、陽平先生のことが好き。ずっと忘れられないでいたんだ」
雨脚が強まっている。
窓の外にいる先生のことが、気になる。
「千笑ちゃん、ごめんね、すごく勝手なこと言うけど、もういちどわたしにやり直させてほしい。だから、陽平先生のこと、諦めてほしい」
なにを言われているのかぜんぜんわからなかった。
たぶん、わかりたく、なかった。



