そうしているうちに、彼女が後部座席へ移動してきて、わたしに向きあった。
「涙を拭いて。可愛い顔が台無しになっちゃうよ」
「……かわいくないです」
「そんなことない。陽平先生が特別に可愛がりたくなるの、わかるもん」
そっと差し出されている、コートと同じ淡い水色のハンカチは叩き落してしまいたかったけど、これ以上嫌なコになりたくなかったので、受け取って涙を拭った。
とてもやわらかい、女の人っぽい、やさしいにおいがした。
目の前で微笑む彼女は本当にきれいな人で、もしかしたらわたしに最初から勝ち目なんてなかったんじゃないかって、ひとりで勝手に悲しくなる。
「千笑ちゃん、もしかして、陽平先生のこと、好き?」
先生はわたしの恋人になってくれたはずだと、言ってしまいたかった。
でも、胸を張ってそうは言えないほど、永遠にわたしの片想いなのだろうということも、わかっている。
「……好きです。先生のこと、大好きです……」
言葉にするだけで息ができないくらい苦しくなる。
「……うん。わたしも、陽平先生のこと、大好きだった」
そのあとに、つきあってたよ、と彼女は続けた。
それは、わたしにとって、死刑宣告のようにも聞こえた。



