さっき、ためらいもなく先生の胸に飛びこんできた彼女と、そんな彼女を抱きしめたがっていた先生の姿を見て、そんなことは一瞬でわかったじゃないか。
「じゃあ、そのあと、ふたりは、どこに行くんですか。なにを、するんですか……?」
ぽつぽつ、夜中から降りはじめる予報だったはずの雨が、ひとつずつ、フロントガラスにぶつかってきている。
「……陽平先生」
助手席から伸びた白い指が、先生のジャケットの袖を小さく引っぱった。
瞳だけを左に向けた先生が視線だけで答える。
そういう何気ない、ひとつひとつのやり取りを見るたびに、心がちぎれそうになるのはどうしてなの。
「少し、車を停めてくれない? 千笑ちゃんとふたりで話がしたい」
なれなれしく名前を呼ばないで。
さっきまですごく幸せだったのに、ぜんぶ、ぜんぶ、暗い雨に溶けていってしまうようだよ。
「……ああ、わかった」
先生は路肩に車を停めると、自分は外に出ていった。
黒い大きな傘で隠されている顔が、よく見えない。



