それでも、澄田陽平先生という人は、そんな理性のないことは絶対にしない人だ。
わたしをちらりと見て、眼鏡なしの先生には似合わないような困った表情をするから、思わずこっちから目を逸らしてしまった。
……ずるいよ。そんな顔をするなんて。
「……ごめん、麻里香。ここ学校だから」
「あ……ごめんなさい。わたし、つい……」
「いいからとりあえず車に乗れ」
先生はその人を当然のように助手席に誘導した。
そこは、いつもわたしが乗っている席なのに。
信じられなかった。こわかった。嫌だった。
でも、そんなふうに思うのはやっぱりわたしが子どもだという証拠のような気がして、そういう自分も、嫌だった。
だからこっちはぜんぜん平気だってふりをして、黙ってその様子を見守るしかない。
「……あ……陽平先生の、いまの生徒さんかな?」
ドアのむこうへ体を滑りこませる直前、顔を上げた彼女が、さもいま気がついたかのように、わたしのほうへ視線を向けてくる。
「みっともないところ見せてごめんね」
冬の日没は早い。
すでに空へあがっている月明かりが、濡れた瞳をてらてらと光らせ、切なく輝いている。



