「む、むむ、むむむりです!」
しっかり握りしめ、守るように抱えこむ。
すると、とたんにとーご先輩が、子犬のような顔を浮かべてしゅんとした。
「……やっぱり、嫌だよな。急に困らせるようなこと言ってごめん」
村娘Aごときが、一国の王子様に、不相応すぎる提案をしていただいておきながら、謝らせるとは何事だ。
「ちが、あの、決して嫌というわけではなく……」
むしろ、夢を見ているのかと思うほど喜ばしく、ありがたい幸せに違いないのだけど。
「……からかって、ますか? もしやなにかの罰ゲーム……」
だって、あのとーご先輩にハチマキの交換を持ちかけられるなんて、わたしなんぞがそんなことをしていただけるなんて、なにか裏があるに違いない、と思ってしまう。
こういうスペシャルな経験をしたことなんて人生で一度もないから、どうしても、かまえてしまう。
だけど、きれいに整いすぎているお顔、けれど人間らしい、親しみやすさのあるそれが、きょとんとわたしを見下ろした。
「おれ、女の子のこといっちょ前にからかったりできるほど、ぜんぜん余裕のあるやつじゃないよ」
いつも様々の女の子から、様々のラブコールを受けているはずの王子様が、本気のトーンでそんなことを言った。
「ハチマキ拾ってもらったとき、千笑ちゃんに『とーごせんぱい』って言ってもらえて、なんかわかんないけど、その顔がすごい嬉しくて。
だから、もしよければと思ったんだけど……でも、ごめん、困った顔が見たかったわけじゃないんだ」
いつのまにかとーご先輩の隣にいたヤス先輩が、それを聞くなり、ぷっと小さく吹きだした。



