純情、恋情、にぶんのいち!





朝から隠し持っていた大きな箱。

それを、化学準備室に入るなりドンといきなり机の上に置くと、先生は不思議そうな、
いや、どちらかというと怪訝そうな顔をした。


「……なんですか、これは」

「いいから開けてみてくださいっ」


先生のきれいな指が、どこか慎重に不格好なリボンを解いていく。


「ねえ先生、きょうが何の日かちゃんとわかってるんですか?」


念のため、中身が見えてくる前に訊ねてみると、「ええ、まあ」と簡単な答えが返ってきた。


「だったらそんなに驚かなくてもよくないですか?」

「いや……これはさすがに、大きさが」


困惑しながらそう言った先生の手が、いよいよ中身を取りだした。

現れたのは、どでかい、まんまるのチョコレートチーズケーキ。


よかった。
傷まないよう、寒い廊下のロッカーのなかに置いていたけど、そのあたりは問題なさそうだ。

少しだけ形が崩れてしまっているのは手作りの愛嬌ということで目を瞑ってほしい。


「だってね、先生のことだから、きっとたくさんの生徒からチョコもらってるだろうなあと思って、いろいろ考えて、わたしは大きさで勝負することにしたんです」


そう。本日、2月14日、セント・バレンタイン・デー。

わたしは器用なほうではないから、そもそも上手にお菓子作りなんてできないし、だからといって有名ブランドのお高いチョコを買えるほどの財力もない。

さんざん悩んだ結果、質量で愛情表現をすることに決めたのである。