「ちゃんと言ってあったんだ。千笑ちゃんには手を出すな、って」
すぐ近くで響くまるい声、まるで直接耳に落としこまれているみたいだ。
「なのにこんなことになって……本当にごめん」
自分のことのように謝るとーご先輩の言葉が、ひとつずつ薬になって、体じゅうに沁みわたっていく感じがした。
ふるふる、答えるかわりに小さくかぶりを振る。
「おれに言えたことじゃないけど……でも、たぶんおれにしか言えないことだと思うから、お門違いかもしれないけど、どうか泰人のこと許してやってほしい」
「え……」
「ほんとに良いやつなんだ。ただ、ちょっと……たまに、こんなふうに、悪い癖が出てしまうだけで」
こんなふうに、絞りだすように、こんな台詞を言ってもらえるヤス先輩を、少しだけうらやましくも思ってしまった。
すうっと恐怖が引いていく。
無意識に背中に腕をまわしていた。
答えるみたいに、とーご先輩も抱きしめ返してくれた。
「……ヤス先輩が本当は優しい人だってこと、わたしも知ってます」
「うん」
「すごく浮かない顔してたから……体調が悪いだけじゃなくて、ほかになにかあったのかもしれません」
「……ありがとう、そんなふうに言ってくれて」
どこまでもまっすぐで、やわらかい。
そういう優しさに包まれることがこんなに心地いいなんて、知らなかった。



