「ぷっ」
ぷ?
場違いなかわいい破裂音に、ぎゅうっと瞑っていたまぶたを持ち上げると、声を押し殺すみたいにして先生が笑っていた。
なぜ、笑っていらっしゃる。
こちとら本気の本気で身を差し出す覚悟をしかけたというのに……!
「おまえ、ほんっとーにバカなんだな。くくく……」
「な、な、なな、なあ……っ!」
「安心しろよ、なにもしねえから」
「え……なにも?」
ああ、とほんの少しだけ優しい音でうなずくと、先生はわたしの頭の上にポコンと手のひらを置いた。
ほっと安心、しかけたのも束の間。
にやりと、また人の悪い笑みを浮かべたかと思えば、ずっと憧れていた、やわらかい言葉ばかりを紡ぐくちびるが、ゆっくりと開いたのだった。
「――いまここでは、な」
目が、マジなのだ。
きっとわたしがなにかヘマをやらかせば、この人はいっさいの容赦をしてくれないのだろう。
ふと、先生の手が机の上にあった眼鏡を持ち上げた。
こんな最低のシチュエーションだというのに、静かに眼鏡をかける動作はため息が出るほどかっこよくて、見とれてしまった。
やっぱりわたしは、ヨウ先生、推しなのです。
「野村さん」
質は同じなのに、さっきとは明らかに別物の声、しゃべり方に聞こえる。
いつものヨウ先生だ。
本当に、二重人格……なんだ。
「可愛い生徒にこのようなことをするのは大変心苦しいですが、今回ばかりは、僕も“彼”の側につくほかありませんね」
「……っ、う、嘘でしょおおお!!!」
ずっと憧れていた、科学のヨウ先生。
顔ヨシ・性格ヨシ・頭ヨシの、三拍子そろった完璧な先生。
そんなヨウ先生は、眼鏡を外すと俺様教師に早変わりしてしまう
二重人格のトンデモ教師、でございました。



