「ありがとう」
「……っえ、」
「おれのために泣いてくれただけでもう充分。……泣かせて、ごめん」
眉を下げたまま微笑み、遠慮がちに涙を拭ってくれるとーご先輩の瞳は、どこまでも澄んでいて、美しい茶色の輝きをしていた。
「あのさ、最後にひとつだけ、わがまま言ってもいい?」
「はい……」
「千笑ちゃんの好きな人って、どんなやつ? これは負け惜しみな」
瞳の奥までも見ることが出来る透明さ、信じられる。
打ち明けよう。
とーご先輩はまっすぐな気持ちをくれたのだから、わたしだって、誤魔化しちゃいけないと思う。
「あの……ヨウ先生、です」
「え? それって、もしかして、澄田先生……で、いいんだよな?」
「う……、あの、はい」
とーご先輩の瞳が戸惑いを隠せないまま揺れた。
その様子に少し怖気づいてしまったけれど、ぎゅっと目を閉じて、勢いだけで続ける。
「……えっと……いま、おつきあいしてる、です……!」
「えっ……それ、ほんと?」
「ほ、ほんとです……っ。わたしが強引に押し切った感じではあるのですけど……いろいろと、ありまして」
まぶたに力を込めた。
やっぱり、どうしても、怖かった。
それでも、これ以上は、とーご先輩にも、自分にも、嘘つけない。



