たしかにこの人の見た目は間違いなくヨウ先生だ。
でも、瞳が、いつもとはまったく違う。
――怖い。
「俺の場合は少し違って、どちらの人格の記憶もあるんだが」
「どういうこと……? せ、せんせい……いったいどのタイミングで、なに……どうやって、変わるんですか?」
「――こいつ」
先生がおもむろに取り出したのは、彼がいつも身に付けている、眼鏡だった。
銀色の細いフレームが知的で、すごく先生に似合っていて、かっこよくて。
そういえば、さっきから先生はずっと、めずらしく眼鏡を外したままでいる。
「俺は、眼鏡をかけると“ヨウ先生”になる」
「じゃあ、は、外すと……」
「おまえらの知らない、“澄田陽平”になる」
どうしよう。
さっき妄想していたのとはまったく別の意味で、失神してしまいそうだ。
むしろもうこの場で意識を飛ばしてしまいたい。
そして、こんなのはぜんぶ嘘だったと、目覚めたときに都合のよすぎる解釈をしたい。
「……は、外してるときが、“本当”のヨウ先生なんですか……?」
こわごわ訊ねてみると、先生は眼鏡を机の上に置き、そっとそれに視線を落とした。
「……さあ。わからねえな」
「え……もう、ぜんぜん、ついていけな、」
「そうだろうな。驚いたか?」
そりゃあ、もう。
驚いたなんてレベルではございません。
「あの……ところで、い、いいんですか?」
「ん?」
「わたしにこんな……ものすごい話をして」
めったに関わらない生徒なのに。
わたしはヨウ先生のことを一方的にすごくよく知っているけど、先生は、わたしのことなんか知らなかったはずだ。現に、さっき、クラスと名前を聞かれた。
「……ああ」
先生の目が少し笑った。
笑ったといっても、やはり優しさなど微塵もなく、悪寒がする前にわたしは目を逸らすことに決めた。



