「人格の分離は思い出すのもおぞましいほどの恐怖だったよ。俺にとっても、たぶん、あいつにとっても」
それは、ほとんどの人が死ぬまで経験しないことで、
普通に生きていたら想像さえしてもみないことで、
それを、先生は、どうやって受け止めながら、受け入れながら、ここまで生きてきたのだろう。
「完全にふたつの人格が形成されきったのは、高校1年の冬かな」
「そう、なんだ……」
「このころは俺のほうが主人格だった」
高校の卒業アルバムのなかにいるのは、退屈そうにこちらを見つめる、いまの先生にとても近づいた青年。
けれど、雰囲気がまったく違っていて、同じ人のような、まったくの別人のような、相対する感じがする。
「なんかちょっと、いまの先生と、違いますね」
率直な感想を告げると、先生はふっと息を吐いて笑った。
「まあ、受験期で、いちばん荒れてたからな、いろいろと」
簡単に言ったけど、そんな一言では片づけられない時代だったに違いない。
お父さんと上手くいかなくなって、少しずつふたつの人格ができていったのだという話、それってよく考えたら相当なことだ。
だって、わたしもお母さんやお父さんと喧嘩することはたまにあるけど、そのストレスのせいで人格が離れていくなんて、絶対にありえないと思うのだ。



