うしろから抱きしめられる体勢だった。
ふたりで寝るのに、シングルベッドはとてもせまくて、先生の温もりを全身で感じられるから、心臓が口から飛び出そうなほどどきどきする。
軽々しく「いっしょに寝たい」なんて言ったわたしはやっぱり本物のおばかさん。
だって、いまにも緊張で死んでしまいそうだよ。
「……先生、」
「こっちを向くな。早く寝ろ」
「だって……ドキドキします」
「おまえは本当に自分勝手なやつだな」
暗闇に視界のすべてを奪われている。
聴こえる時計の秒針の音と、感じる先生の温もりが、わたしの世界を支配している。
「……先生にぎゅってされるの、好き」
「へえ」
「先生は?」
「なんだ」
「わたしのこと、好きですか」
それとも、ほかに好きな人がいますか。
あの女物の腕時計、持ち主は、誰ですか。
「先生……」
わたしを抱きしめる腕に力がこもる。
先生の体温は、見た目よりもずっと高いのだと思った。
「そうやって黙ってはぐらかすの、先生の悪い癖です」
すぐ耳元で息を吐く音が聞こえた。
「……おまえは本気だったのかよ」
「なにが?」
「なにされてもいい、なんて、本気で言ってたのか」
子ども扱いされるのが嫌だった。
先生を近くに感じるたび、逆に先生との距離を思い知らされるようで、嫌だった。
あの女物の腕時計が、どうしても、引っかかっている。



