……ど、どちらさまでしょうか?
まさか修羅場……でしょうか。
「あ? なに言ってんだよ、だからおまえ、勘違いしてんなよ」
「………、……え? あれ?」
室内にいるのはたしかにふたりだった。
わたしと、それから……
「……ヨウ、せんせい……?」
まさか、あの
――ドスのきいた声を発している男性が?
真剣な話をされているのか、ヨウ先生はいっこうにわたしに気づかない様子で、眉をしかめながらスマホを耳に押し当て、ずっと通話している。
「勘違いしてんじゃねえよ、面倒くせえな」
「……あの……」
「たかだか一回寝たくらいで」
「……。……ええと、」
……スミマセン。どなた様でいらっしゃいますか。
普段とあまりに違いすぎて話しかけることさえ叶わない。
これがあのヨウ先生?
優しくて穏やかな、生徒に対しても決して敬語を崩さない、ヨウ先生なの?
「……し、信じらんない……」
受話器の向こうの相手をひたすら罵るこの人から、普段のヨウ先生は、1ミクロも連想できない。
ていうか、こちらに気づいてないのがツッコミづらくて、仕方ないのですけど。
もう、気づかれないうちに帰ってしまおうか。
そしてあしたから、また、なにも知らないふりをして過ごせばいいのでは。
そうだ、それがいい。
そのほうがきっと、お互いのためになるはず……。
「――おいこら、待て」
こっそりドアに体をすべらそうとした、その瞬間。
低い声に呼び止められて、瞬時に体が硬直した。
恐る恐るふり向くと、わたしをまっすぐにらみつける、ヨウ先生がいた。



