先生は、返事もしないし、受け入れてもくれないけど、拒否も、しない。
「……名前、で呼んでほしい、です」
せめて、ふたりきりのときだけでいいから。
「――千笑」
先生のくちびるが耳元まで寄せられていたこと、声を聴くまで、知らなくて。
「メリークリスマス」
隠すように、簡単に手に触れられないように、引き出しのなかにしまってあった女物の腕時計のことは、心のいちばん下まで沈めた。
「メリークリスマス……です」
顔を上げられないまま、小さくこぼしたわたしに、先生はまた笑った。
恥ずかしさと、どきどきと、緊張と、
それと同じくらいの、たしかな期待。
先生の手がわたしの顎を持ち上げ、なにも言わないままくちびるを塞がれた瞬間、すべてが真っ白に染まっていく。
どうなってもいい、と思った。
気づけば、たぶん、わたしのほうが求めていた。
「……んっ、ふぁ……っせんせ、」
「……そんな声を出すな」
少し離れたくちびるの間で、先生がかすれた声を出す。
何度も交わした熱いキスのせいで、本当にもう、頭は真っ白だ。
「……先生、」
これは、もう、祈り。
「きょう、このまま、泊まりたいです。先生といっしょに寝たいです」
気持ちが心のふちからあふれて、涙に変わるかと思った。



