「……はあああ……」
盛大すぎるため息をつき、まだどくどくしている心臓を落ち着かせるために、鞄のなかからスマホを取り出す。
新着メッセージが1件あった。ふたつ年下の妹からだ。
【おねーちゃん、今夜は泊まり? こっちはテキトーにゴマカシといてあげるから、ちゃんと女になって帰っておいでね~ん】
どちらが姉で、どちらが妹なのか、いつもわからない。
それは思考の違いだけではなく、体つきも、恋愛経験も、すべてにおいてだ。
「あ、り、が、と、う」
ひとまず5文字だけ打って、それから先をどうやって続ければいいのか、わからなくなる。
だって、『女になる』って、わたしはたしかに嫌になるほど子どもだけど、その意味がわからないほどではないのだ。
そうだ。
“そんなこと”が、絶対にないなんて言いきれないわけで。
先生は、先生だけど、まぎれもなく男の人で、わたしはどんなにガキンチョでもまぎれもなく女で、先生は、もしかしたら朝まで眼鏡をかけないかもしれないわけで。
「……っどうしよう、」
ぜんぜん、なにも考えていなかった。
ただただ先生に会いたいという気持ちだけでここまで押しかけてしまったけど、わたしは、先生の優しさに無償で甘えられるほど、なにも知らない子どもじゃない。
妹の万幸には、結局『ありがとう』とだけ返信し、とてもじゃないけどじっとしていられないので、家の中を探索することにした。
キッチン、バスルーム、それからベッドルーム。
仕事部屋と兼用にしていそうなベッドルームには、ベージュのシーツのシングルベッドがひとつ置いてあるだけで、頭がくらくらした。
……もしかしたら今夜、あそこで、先生と。



