カンちゃんは化学の先生だから、荷物はすべて化学準備室にある。
そして、そこには、同じ化学を受け持つヨウ先生もいるはずだ。
「んん? 待てよ。それって超ラッキーでは……?」
ヨウ先生の、あの優しい笑顔が頭のなかに浮かんで、小さくガッツポーズした。
カンちゃん、ゴメンは訂正。
そしていまから最低なことを言います。
棒に当たって失神してくれてありがとう!
化学準備室にヨウ先生はいるだろうか。
もしかして、みんながグラウンドにいるこの時間、ふたりきりだったり……?
どうしよう!
もしそうだったら、今度はわたしが失神してしまうかもしれない。
自然と足取りが軽やかになっていく。
ルンルンと弾む足で廊下を歩けば、すぐに化学準備室には到着した。
コン、コン、遠慮がちに、ノックをふたつ。
ヨウ先生、いるかな。いたらいいな。
きっといつも通り、挨拶くらいしかできないだろうけど。
「失礼しまー……」
「――うぜえ」
「……は。はひ?」
ドアを開けた瞬間、鼓膜をガツンと殴ってきた、ドスのきいた低い声に、思わずフリーズしてしまった。



