「――千笑ちゃん!」
雑踏のなか、次に鼓膜を揺らしたのは、クリスマス仕様のモミにも負けないほどキラキラした声。
「と、とーご先輩っ!」
「待たせてごめん! ……って、」
とーご先輩の視線が、怪訝そうな色を浮かべながら、わたしの左側に向いた。
「……ごめん、この人は誰?」
「えっ!?」
わたしもそれを知りたいのです。
誰なのでしょう。
手をしっかり握られておりますが、この人はいったい何者なのでしょう。
「なーんだ、男付きかぁ」
止まった時間を動かしたのは、ほかでもない、声をかけてきた黒髪の男性だった。
「あーあ、ナンパ失敗」
「えっ!? ナンパ!?」
「キミみたいな子、イマドキめずらしいね。ヘンな男に引っかからないように気をつけてね」
じゃあね、と、どこかで見たことのあるような気もする優しい微笑みを残して、彼は去って行った。
いったい、なんだったのだ。
「千笑ちゃん」
「は、はいっ」
「行こう」
「え、でもまだ、さーちゃんたちが……」
「いいから行こう」
ついさっきまであの人に掴まれていた、左の手首。
それを、今度はとーご先輩が持ち上げ、引っぱっていく。
王子様にこんなことをされて、拒否できる村娘Aなどいるはずもない。



