先生は、くすくすと空気をくすぐりながら、小さく笑っていた。
「野村さん、こっちに来なさい」
あまりに突然の裏腹な発言で、歩を進めるという簡単な行為ができない。
足の裏から床に根を張っているわたしにかわり、先生のほうが、わたしのほうまで来てくれた。
目が、ちゃんと、合う。
「ありがとう」
迷惑だ、もう二度と関わるな、とこっぴどく振られるより、優しく振られるほうがきついかも、と瞬時に思った。
だって、こんな優しい瞳、声、語り口調。
……どうにも、期待してしまう。
欲張りになってしまう。
「けれども、揺るぎないことに、きみは生徒で、僕は教師です。“彼”のほうは自分を教師だとはあまり思ってはいないようですが、これに関してはきっと僕に同意してくれるはずです」
教師とか、生徒とか。
それは、いちばん理由になりえることで、だからこそ、いちばん理由にされたくないことだった。
「いやです……せんせ、」
「駄々をこねたり、わがままを言ったり、こればかりはもう、きみお得意のなにをしたって通用しませんよ」
それなら、嘘でもいいから、ひどいことを言ってくれればいいのに。
もう先生の顔を見るのも嫌になるくらい、木っ端みじんにこの気持ちを粉砕してくれたらいいのに。
どうして、わたしの気持ちを丁寧に受け取りながら、大切に扱っているようにしてくれながら、肝心な部分はなにも言おうとしてくれないの。
だから、ずるいと言われてしまうんだよ、先生。
「――じゃあ、バラしてもいいですか」



