はっと我に返る。
先生の腕は、もうわたしを抱きしめてくれてはいなかった。
「……え……? いま、わたし……なんて、」
かあ、と顔が熱くなる。
先生はなんともいえない、だけど決して良いとはいえない表情をして、わたしから視線を逸らすと、小さく息を吐いた。
なにが起こったのかぜんぜんわからない。
なにを思って、あのようなことを口にしてしまったのか、自分でもわからない。
――ほんとう、に?
ほんとうに、なにも、わからない?
先生はおもむろに立ち上がると、黙ってわたしに背を向けた。
いつもよりうんと遠くに感じる背中を、現実味のかけらもない気持ちでぼうっと見つめる。
やがて、先生はゆっくりとした動作でわたしをふり返り、くちびるを動かした。
「置いてくぞ」
その一言はどこまでも、いつも通りの先生で、さっきくれた温もりなんか1ミリも残してなどいなかった。
あわてて先生の元に駆け寄ってみても、なぜか隣には並ぶことができない。
信じられない一言を口走ってしまった。
たしかに事故に違いないけど、不思議なほど、腑に落ちている。
本当は、自分でももうとっくに、心のどこかで気づいていた。
先生はどう思っただろう?
呆れたかもしれない。
面倒だと思ったかもしれない。
それとも、本気にさえ、してくれていないかも。



