純情、恋情、にぶんのいち!



「きみもハチマキ白だから、白団だよね?」

「は、はいっ」

「ぜったい優勝しようなー!」


こぶしを差し出されたので、恐る恐る、同じようにグーを向けてみる。

とーご先輩のほうから、乾杯するみたいに、こつん、とぶつけられる。


「…………っ!!」


グータッチ。

信じられない。
あのとーご先輩と、お話させていただいたどころか、肌が触れあってしまった、なんて。

じゃあね、と爽やかすぎる挨拶を残して行ってしまった背中を、呆けた気持ちで眺めていた。


「ど、どう、どうしよう……」


もう死んでもいいかも、というより、あしたあたり、死ぬのかも。


いつのまにかさーちゃんがいなかった。
さーちゃんだけじゃない。みんな、いない。

完全に置いていかれているけど、このふやけているであろう顔をぶら下げて団席に戻るのもはばかれて、いったん落ち着くために足元に目を落とすと、もういちど大きな影がわたしの前にやって来た。


「――ごめん、あのさ!」


キラキラのオーラ。
爽やかすぎるお声。


「え……」


なぜ、再び、王子様が村娘Aのもとへ?


「名前、聞くの忘れてた! 聞いてもいい?」


村娘Aに名前なんてあるのだろうか、などというアホらしいことを、本気で思ってしまった。


「の……むら、野村(のむら)千笑(ちえみ)、です」


あまりのことで、もはや心にはどきどきする隙間さえなく、気づけばバカ正直にフルネームをしゃべっていた。


「千笑ちゃん、ね! 了解、ありがとう」


なにが『了解』なのかわからない。

けれど聞く間もなく、というか呆けすぎてそんなことにまで頭が回らず、とーご先輩はまた走り去ってしまっていたのだった。

お顔の見えない後ろ姿さえ、果てしないかっこよさを帯びていて、どういう原理なのかわからない。