「だからさ、」
けれど変わらないものもあると、わかっていたはずだった。
「ちゃんと、言ってくれていいから。そのせいで受験失敗するとか、そんなへましないし。気にしないでコウちゃんは、振ってくれていいから」
その瞬間、ぴたっと蝉の鳴き声が止まった。
恐れていた沈黙が訪れる。
蒸し暑いのに、心にすっとあの日の冬の空気がやってくる。
耳の奥にじりじりという夏の音が響いていた。
あたしは瞬きを忘れまま、ただその音を聞いていた。
わかっていた。
頭のどこかで、今言うべき言葉が繰り返されていた。
ごめんなさい。ごめんなさい、増岡君。
なのに、彼の目を、日に焼けた肌を、背の高い姿を目の前にして、その言葉が出てこない。
出てこない。
あの冬の日と、同じように。
「何で断らないの?」



