盛りの付いた高校生カップルじゃあるまいし、オフィスで襲ってくるような馬鹿オトコではなかったけれど、タクシーの中でも、あたしのマンションのエレベーターの中でも落ち着きなんて皆無で。


でも、その妙に焦ってるその顔に色気を感じて、愛しさを覚えた。



「ねえ、小鳥さん。あたしは逃げもしないし、隠れもしないわよ」


8階まであと2フロア。


「でも今この時の瑠李さんは一秒後にはいない」


あと1フロア。


「そんな惜しいことなんか、できないでしょ」



……チン。


始まりのベルが響く。




「随分達者な小鳥さんだこと」