旅行用のバックに、荷物をギューギュー押し込む。

「滝山くん、どこ行くの?」

「まぁ、行けば分かるさ!そーだ、忘れちゃいけない充電器っと」

さっきからキョトンとしてる奈緒。


喜んでくれるかな…

オレのサプライズ。


それから、机の引き出しの奥から、ずっと大切にとっておいた物を引っぱり出した。


やっと…

念願が叶うかもしれない。


それは、手のひらにちょこんと乗るくらい小さくて、全体的に黒く薄汚れてしまった

ピンクうさぎのマスコット。


「滝山くん!それ…!?」

ビックリしてる奈緒。

「ああ、これ?キモいだろ?オレがこんなの持ってるなんてさ」

今まで誰にも言った事ないけど、奈緒になら話してもいいや。


「オレがまだ小さい頃、ここに引っ越してくる前の話ね」


元々このマスコットは、オレの幼馴染みだった女の子の物だった。

ある日、その子が泣いてたから『どうしたの?』と声をかけると、マスコットが破けてしまったと言う。

オレのお母さんは手芸が得意だったから、『お母さんに直してもらう』と言って、預かった。

直ったのを渡そうとしていたその日、その子は突然どっかに引越してしまっていた。

あの子は『待ってる』と言ってた。

だから、ずっと預かっていたんだ。

いつか返せる日が来ると…信じて。