――昔。禍后は優しい人だった。


――優し過ぎる人だった。




「月華、怪我してんぞ?」

「直ぐに治る。」

「って、2週間も前に言ってたよな。」



――よく私の世話をしてくれた。





「ほら、消毒液だ。」

「さんきゅ、乃亞。」



――乃亞と一緒に。




何日も放置していた傷は化膿してどんどん悪化した。


だけど痛みはない。



そんな感覚はどこかに忘れてきたみたいだ。




「痛みはな、お前を守るためにあるんだ。」

「守る?」

「痛いと思わなかったら、お前、こうして放置するだろ?それじゃ体がもたねぇよ。」

「もってる。」




いたって健康。


痛みを感じないほうが仕事に支障が出なくてすむ。