次の日の朝も、母親の暖かな朝食が準備されていた。兄はまだ起きてきてはいない。
俺は何の疑問も持たず椅子に座り、準備されたその朝食に手をつけようとしていた。
「おは、ようございます……」
「にいちゃん!おはよ!」
起きたばかりではなさそうな様子ではあった。
もしくは、寝られなかったのかもしれない。
とにかくその時の兄の表情は、なんとも言い難い。
一瞬驚いた表情を浮かべたかと思ったら、次の瞬間には諦めを含んだような悲しげな表情に。
「僕のは?」そう言った彼はもう、期待も何もしていなかったのだろう。
それに答える母の声も言葉も酷く辛辣で、聞いている俺もあまり明るい気分のままではいられなかった。
「………、…」
何か、小さく小さく呟いた兄の言葉は、全く聞き取れなかった。
うつむいて、表情を何も見せないままに、兄は、家から、出て行った。
――――それからしばらくの間、兄の姿を見ることはなかった。



