「おかえり!にいちゃん!お母さん、にいちゃんが帰ってきたー!」
「にいちゃん?……ああ、暁斗ね。」
母親はリビングからちらりと顔をのぞかせ、兄を一瞥すると、すぐに俺に視線を戻した。
「いらっしゃい、蓮士。お話の続きを読んであげるわ。」
「にいちゃんも一緒?」
「お兄ちゃんはね、お兄ちゃんだからもうえほんは必要ないのよ。…あんたはさっさとお風呂に入って寝なさい。」
兄に向けられる母の視線はとても冷たくて、子供ながらに不思議に思った。
それに、自分に向けられる視線とあまりに違いすぎて、同じ母親には見えなかった。
兄が帰ってくるのとほぼ同時にべつのドアから自室へと戻ったらしい父親は、兄に何か温かい言葉をかけることはあるのだろうか。
――――いやきっと、ないのだろう。
結局リビングに戻っても兄が気になった俺は、絵本を読んでもらうことは止めた。
時間ももう夜遅くなっていたから、母親にすすめられるまま眠ってしまった。
昨日からそうしているように、俺の部屋に布団を2枚敷いて、父と母に挟まれた状態で。
今までここに置いてあった俺のベッドがどこに置かれていて、それを知った彼がどんなことを思ったのかなんて、俺は知る由もなかった。



