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華は、あまり笑わなかった。
いつも凛としていて小さい俺が惹かれているのは見ていてすぐに気付いたが、俺からしてみれば物足りないくらいに表情が乏しい。
その様子は、俺の知っている誰かを彷彿とさせた。
――まだ、誰だかは分からないが。
いつも、思い出しそうになると思考が途切れてしまう。
だからまだ、ただただこの映像を見ている。
「はなちゃん!遊ぼう?」
「…わたし、やらなきゃいけないから。」
華はいつも、上野という女性と共に何かしていた。
それはだいたい勉強で、俺がまだ読めない文字も読めるし、話し方だって違う。
勉強の時は本当に家じゅうが静かで、たまに華が叩かれる乾いた音が聞こえた。
そんな時はだいだい父親と一緒にいた。
大好きだった父親も、この家にいるときは昔とは様子が違う。
あまり声をあげて笑わないし、笑わせるようなこともしてくれない。
いつも困ったように悲しそうにほほ笑んでいて、あの、怖い母親がやってくると瞬時に表情を凍り付かせていた。



