少女の母親は夫の帰りを粛々と待つような女ではなかった。


もちろん、少女の父親が他に女と関係を持っていたのは隠し切れはしない事実だったからだ。


それならば、と母親はあらん限りのものに溺れた。



―――酒、ギャンブル、そして男。



幸か不幸か、金は掃いて捨てるほどあったから、女の行動に際限はなかった。




……さまざまなものを手にしても、女の手に夫はなかなか戻らなかった。




「…あんたが、気持ち悪い子だからよ。」




家に帰れば異形の姿を持つ娘がいる。


女の暴言が止むことはなかった。








女の征服欲からか。


少女は幼いころからさまざまな教育を受けた。



ただ一人の、教育係によってだ。


少女の姿を多くの人間に晒すのは女には耐えられなかった。


“桜咲の家には人でないモノがいる”という噂を心の底から恐れたのだ。