「あたしは誰の一番にもなれない。けど今、あの家に帰らなかったらもっと惨めになるって分かってるから。居場所さえ無くなっちゃう気がするから。それだけは避けなきゃ」

なんと言えばいいのか分からなかった。


“俺の一番はお前だけど”なんてくさくて現実味のない言葉は言える訳もなく。


「ああ、映画とかなら格好いい男がかっさらってくれるんだけどなぁ……」


ニッコリ微笑んだ彼女はもう優等生の笑顔を貼り付けていて、余計に心が痛んだ。


じゃーね?とドアを開けて出ていく白川の手を咄嗟に掴む。


「なに?」


「俺がやってやろうか?」


「なにを?」


「映画でよくある“かっさらう”ってヤツ。……もし本当にお前が両親に愛されてないなら……。あの家に居場所がないなら、『こんなに僕は杏奈を愛してます』って俺が奪ってやるよ」


目を見開く白川の艷やかな髪を撫でる。