「なに見てるの?」 いつもより少しだけ距離をあけて わたしも彼が見ている方向を見てみた。 なにも見えない。 明るいところにいるからなおさら。 「とくに、なにも。」 小さく笑って、一瞬視線をこちらに向ける。 でも、わたしがすぐに逸らしたのを見ると また暗闇にもどした。 「なにそれ。」 「倉持には言われたくないな。」 「え?」 もう、相手はこちらを見ない。 前を向いたまま話す。