「ねえ…"僕"が欲しいものを欲しいと言って、要らないものを要らないというのが、そんなにおかしいこと? 人間として普通のことを…当然なことを言っているんだよ、"僕"は。どうして"僕"が言ったらいけないの? ねえ……」
それは凶言(まがごと)の様に。
あたしの頭に、鉛のように重い…鈍い靄がかかっていく。
「櫂は…"僕"から全てを奪った。
自分の我儘を通す為に、"僕"の全てを犠牲にした。
あの屈辱、あの憎悪。君には判るか!!!?」
偽物だと…思うには、あまりにリアルな感情説明で。
心が…痛くなった。
「"僕"はずっとずっと日陰にいなければならなくなった。
"僕"は益々の我慢を強いられた。
年下の、生意気な男に――何で"僕"が仕えねばならないんだ!!!」
それは悲鳴のような独白で。
櫂は――
蒼白になって凍り付いていた。
「どうして櫂ばかりが恵まれる!?
どうして"僕"ばかりが迫害されるんだ!?
自分よりも格下だといつも見下され、蔑まれて。
どうして"僕"はあからさまな…そんな蔑視に耐えねばならない!!?
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして!!!?」
掠れきった慟哭。呼応するかのように、突然周りの景色が…色付いた。
映像…?
それは、沢山の画面(モニター)のようなものに覆われていて。
どれもこれもに…櫂が映し出されていた。
小さい櫂、大きい櫂…その顔は、無慈悲な程冷たい…まるで今の玲くんのような冷淡な顔つきで。
そして所々に…小さい玲くんが映っていた。
泣いている玲くん。
蹲っている玲くん。
怯えている玲くん。
仮面のように笑い続ける玲くん。
櫂と玲くんの対比は明確で。
「本当は…"僕"が次期当主だったのに!!!
剥奪された後の"僕"の境遇がどんなに惨めなものだったか、君に判る!!?
"僕"は全てに見放され、誰もに手の平を返された。
その間、櫂は堂々と太陽の元を歩き…それなのに"僕"は…"僕"はッッ!!!」
画面に映る玲くんは…涙が出てきそうなくらい痛々しくて。
ああ、まるで昔の櫂が虐められて泣いているようで。
あたしは胸が詰まって…何も言葉に出来なかった。

