はっきりとあるのは上岐妙と思われる少女の…憎悪のような昔ながらの記憶と、櫂様達の昔の記憶のみ。


昔のものだけだ。


もしも。


黄幡一縷の存在が過去で終わっていたら、現在崇められている"イチル様"はなんだというのか?


現実的に考えれば、"死"を挟んで過去と現在が結びつくことはない。


だとしたら、櫂様達の記憶がある昔を是とすれば、現在の一縷像は否となる。


――むしろ…時系列が違わねば、話が成り立たないということさ。



それくらいは、櫂様も…玲様も結論出来たはずだ。


だけど、そうとも言い切れぬものがある。


全てを大衆の"妄想"と片付ける為には…"イチル様"の存在は強烈だから。


そこに誰か、はっきりとした輪郭を客観的に論じられる者が出れば、その仮定は崩れる。


そして新たな問題が上がるだろう。


では、カリスマと謳われた"イチル様"は誰なのか。


イチル様とみなされた屍体は誰のものか。



上岐妙は、その存在が世に認められている。


別存在だと考えた方が自然だ。


だとしたら、今…上岐妙の中にある一縷の意識は何なのだろう。


幽霊…とは私はどうしても考えられないのだ。


私を含めた全員が、彼女に…瘴気を感じないから。


では――


彼女自身が生み出したものか?


或いは。


誰かから無理矢理入れられたものか?



同じ肉体に存在する、2つの意識。


見た処、上岐妙と一縷の意識は混濁しているように思えた。


昔の一縷と、イチル様と、上岐妙の中にいる一縷。


それがイコ―ルかどうかも判らない。


仮にイコールであれば、意識は…肉体を変えて生き続けられるとでもいうのか。


それは――


不可能ではない。