判ってねえ…。


気持ち悪いこの笑みは、玲がよくしていたものだ。


本心隠して諦めようとしている時の顔。


ああ、本当に…玲と櫂は血が繋がっているんだなって改めて思った。


普段なら、貪欲な櫂がこんな表情をするなんてありえねえ。


ショックが大きすぎて、櫂は抵抗する気力を失い、ただ流されるがままに……"守る"なんて体(てい)のいい言葉で、俺達を紫堂に返上しようとしてる。


当主がどれだけ怖い存在なのか、紫堂を敵に回すとどれだけの事態になるか、ただの護衛役の俺には推し量ることはできねえけれど、俺達は黙ってされるがままの道具じゃねえ。


人間だ。


自分の主くらい、自分で選ぶ意志がある。


俺達の行く末は、俺達が決める。


そんな時、芹霞がキレた。


――馬鹿考えているんじゃないわよッッ!!!



芹霞は必死だった。



――戻ってきなさい、あたし達の元にッッ!!!



大体、ありえねえことだよ。


櫂が芹霞を諦めるなんて。


12年間想い続けてきたんだろう?


芹霞への想いに、何処まで剥奪された紫堂の次期当主というものが関わっていたのかは判らないけれど、櫂が…紫堂の次期当主という地位を望んだ理由は、絶対芹霞の為だったのだということは判った。


紫堂=芹霞。


馬鹿な櫂。


お前も、父親同様…芹霞を道具に見ているんじゃねえか。

俺達と同様…紫堂がなくなれば消滅するものだと思っているんじゃねえか。


俺達の意思を無視してんじゃねえか。