嫉妬。
嫉妬。
嫉妬。
芹霞を奪われたくない、焦るような激しい衝動。
今にも芹霞を腕を引いて、抱き締めたくて仕方がない。
櫂に触らせたくない。
櫂の視界に入れさせたくない。
黒い醜い感情だけが、"僕"を炙り出していく。
完全に狂ってしまえたら。
理性も何もかもを崩壊させて、ただ泣き喚くことが出来たのなら。
どんなに楽だろうか。
そんな時、櫂と目があって。
芹霞を傍に置いたまま、澄んだ目を僕に寄越して。
「玲……よかった。
お前が無事で、本当によかった……」
そう、柔らかく笑った。
だから僕は――
「お前が逝く…悪夢を見た。
もうごめんだ、あんなのは。
…絶対ありえないと、誰の手でもなく…俺が絶対お前を呼び覚ましてやると、自力で抜け出して来てよかった」
櫂を嫌うことなど出来やしない。
僕を信じきっているこの瞳を、僕の心の闇を打ち消すこの力強い瞳を――残したまま逝くことは出来ない。
僕は。
櫂を支えるために、この場に居るのだから。
8年前。
櫂が居なかったら、僕は今この場には居ない。
その時、パンパンパンとやる気なさそうな拍手がして。
「お涙頂戴の再会劇。えらく感動させて貰ったよ」
櫂と酷似した…男が言った。
「お前は誰だ?」
櫂が、警戒に満ちた低い声を出した。
「俺を知らないのか。玲から聞いてなかったのか?」
嘲るようにしながら、僕に振り向いた。
「――…玲。
この男は誰だ?」
本当は。
隠したかったのだけれど。
櫂に知られたくなかったのだけれど。
僕は、強張った顔で言った。
「彼は…――お前の兄。
紫堂…久涅(くずみ)」
「久涅……? 玲の前の…」
そう、僕の前の追放された"次期当主"。

