櫂Side
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「玲、どうした?」


「……。ん? 何が?」


俺が何を聞きたいのか判っていて、判っていないような微笑みを向けてくる。


だけどその微笑みは、先刻芹霞の意向を無視して向けたあの微笑とは違う。


あの時の笑みは、絶対心の内に近づけさせまいとする…当初の玲の微笑。


初対面の芹霞が、気持ち悪いと叫んだあの微笑みで。


それが判った芹霞は玲を気にしてちらちら視線を送るけれど、玲は芹霞と接しようとせず、俺の隣にばかり立っていた。


芹霞とどうこうあったわけではないだろう。

昨日就寝時までは、芹霞に普通に接していたのだから。


だとしたら、それから朝俺達と合流するまでの間に、何かがあったのだろうか。


玲が…意識的に芹霞を避け、俺の傍に居なければならない"何か"が。


――誰誰誰!? 宝石箱をとってきてくれたの!?


俺すら中身を知らないあれを、玲が芹霞の家に取りに戻ったというのなら、その時に何かがあったのか?


何だ、それは?


その時――


「随分と…静まり返ってるな」


煌が警戒したような声を出した。


そして――


複数の視線。



生徒を収納する校舎に入れば、それは色濃いものとなった。


いつもの騒がしい取り巻きではなく、確実な敵意。


それは芹霞なのか俺に対してなのかは判らない。


生徒に刺客が…紛れ込んでいるのか?


それは誰もが気づいている。


「ぐへっ。それから。今週…来年高校入学志願者向けのオープンキャンパスになる為、授業は午前中のみとなります。授業見学に中学生が混じるかも知れませんが、そこはよしなに。桐夏も同じですから、ご存知ですよね?」


芹霞は煌と顔を見合わせて、2人でぶんぶんと頭を横に振る。


そんな時期だということを、正直俺も忘れていた。


桜華生徒以外が混ざるのだとしたら…


この視線は招かざる外部の者から放たれているのか。


「おや、桐夏は通知なしなのかな。ああそれから。恥ずかしながら今桜華は、奇怪な猟奇事件によって悪評が高く…このままでは数ヵ月後に控える受験志願者数ががた落ちしてしまう危機に陥っています。

その上、桜華の自由な校風は、最近"乱れ"も目立つようになりましてね、オープンキャンパスもありますし、モンスターペアレントの対外措置としてもと、一案講じまして…。現在・・・先週末からですが、風紀粛正を図っています。ぐへっ」


"風紀粛正"


現代においては、最早死語になっていそうな単語を、学園長は得意げに口にした。