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 ◇◇◇


本当に弱弱しい女の子だった。


いつも煤汚れた黄色いワンピースを着て、いつも同じ公園でぼんやり。


そしてガキ大将達に絡まれて、あたしがそれを助ける。


「ねえ、どうしてそんなに髪が長いの?」


体育座りをした櫂が、不思議そうに女の子に訊いた。


同様に座り込む少女の後方には、地面に零れ落ちるようにして拡がる黒髪。


「お顔が隠れちゃうよ?」


確かに、少女の顔は…髪に隠れて見えない時がある。


というか、助けても…いつも逃げるようにして帰るから、その顔をじっくり見たことが無い。


「切られるの怖い? 僕も怖いけど…隠しているとお化けに食べられちゃうんだって」


真剣な顔で櫂は言った。


櫂の散髪はあたしが係。


可愛い顔が隠れるのが嫌で、ぶるぶる震える櫂を騙し騙し…無理やり切っている。


「顔を…見せたくないの」


少女は言った。


「私は…――を盗むから」



聞き取れなくて、あたしと櫂は同時に聞き返した。



「心を…盗むって。怒られるの。だから隠しているの…」



意味が判らなくて、あたしは手を伸ばして、その前髪を上げてみる。


びくっと震える華奢な身体。


「綺麗…」


その目は…透き通るような碧眼で。


だけど…片目だけ。


「硝子のようだね」


櫂がふわりと笑った。


「気持ち…悪くないの?」


櫂とあたしは頭を横に振った。


すると少女は両手で顔を覆い、泣き出してしまった。


「…初めて。そう…言われたの」


「名前…教えて?」


あたしは言った。


「お友達になろう?」


櫂があたしを見て、少女に微笑みかける。


「なろう? 僕は櫂。こっちは僕が世界で1番大好きな芹霞ちゃん。強くて優しくて、本当に本当に僕大好きなの」


いつも惰弱なくせに、こういうことは臆面無く。


思わずあたしは照れてしまった。


少女は…躊躇いがちに言った。



「私の名前は…」




――イチル」



と。