判れよ…、判ってくれよ。


俺は…軽い気持ちで今まで傍に居たんじゃない。


お前を犠牲する程の価値を、紫堂に見いだせない。


なあ、何処まで俺の愛はお前に伝わっているのだろう。

なあ、そんなに簡単に俺を…お前は離してしまえるのか?


嫌な予感は…しないのか?


俺だけが未練で、俺だけが苦しくて。


物分かりいいお前なんて欲しくない。


もっともっと駄々捏ねて、俺の傍に居たいと…泣き叫べよ。


背を向けた俺に、芹霞は追いかけてこないのが、心が抉られるように苦しくて。


"約束の地(カナン)"のように、俺を求めてはくれなかった。


まだ大して日にちは経っていないというのに、その心の変化が、どうしようもなく辛くて。


今のお前の心の中には、俺が入っているか?


俺は、永遠か?


俺は、運命か?



ああ、それに縋りたいのは俺の方だ!!!



耐えきれなく戻った俺を、それでも芹霞は受入れず、涙を流してでも突き放す。


判っているよ、お前の心は。


だけど、そんな"立派"なものより…剥き出しのお前の心が見たい。


泣いて喚いて俺を求めるお前が見たい。


だけど芹霞は、毅然としていた。


取り乱したのは俺の方。

求めるのは俺の方。


その温度の差に、更に心は抉られた。


どんなに唇を合わせても、芹霞の心の動きは…俺には感じ取れなくて。


俺だけが、苦しみに震えた。


だけど、芹霞が言ったから。


俺の手に巻き付けたものが、自分の代わりだと。


いつでも一緒にいると。



それは真紅の模様が入っていて。


8年前の不吉な予感を感じさせた。


だけど、俺達は真紅で結ばれた絆があるのだから、真紅色は芹霞の象徴で。


どこまでも愛おしく思って、俺は口付けた。


愛おしくて仕方が無かった。