「ユキ…シロ…で合って…る?」

 コクリ、と彼は頷いた。

「…えっと、そのまま読んでいいのかなぁ?」

 表情は変えず、またしても頷く。

「…カイリ…?」

 少しだけ目を細めて、彼はまた頷いた。そしてメモの上をペンが走る。

『あなたの名前も教えてください。』
「あ、そ、そうだよね!ごめんなさい!春名旭っていいます。」
『どんな漢字を書くんですか?』
「えっと…あ、メモとペン、借りてもいいですか?」

 彼は優しく微笑んで、旭にメモとペンを差し出した。旭はそれを受け取って、彼の綺麗な字の下に小さく名前を書いた。
 彼のバランスの取れた美しい字の下にある旭の丸字は、有り得ないくらいに読みにくく思えてしまう。そんな旭の気持ちなんて知らない彼、もとい海理はメモを覗き込んだ。そしてメモとペンを持ち直すと、少し考えてから何かを書いて、旭に見せた。

『温かい字です。あなたの名前の漢字も、あなたの字、そのものも。』

 穏やかな微笑みと一緒に美しい字が返って来て、旭は少しだけ面食らった。一見すれば、なんてことはない普通の会話。
―――ただし、海理からは〝音〟が返ってはこないけれど。