* * * * *


バタン、とドアが閉まる音がして、あたしは音のした方を振り返った。


「あ、おはようございます!雪城さん。」


彼は音もなく微笑んだだけ。
黒のズボンに薄水色のシャツという、彼の肌の白さを強調させるような色彩の衣服を身につけ、ゆっくりとキッチンに歩み寄ってきた。


ポケットからメモとペンを取り出し、いつものごとくさらさらと滑らせる。


『おはよう、旭』


端正な字がそこにはあって、たったそれだけでちょっとだけ心がほぐれる。
…どうやらあたし、この字が好きみたい。
自分とは真逆の、綺麗で真っすぐなこの字が。


「…雪城さんの字、やっぱり綺麗ですね。
『旭』って自分の名前だから何百回と書いてきたけど、こんな風に綺麗に書けたことなんて一度も…。」


そう言うと、彼は目を細めて小さく微笑み、またペンを走らせる。


『ありがとう。
でも僕は旭の字も好きですよ。』


〝好き〟という優しい言葉。
字となるこの言葉には、音としてのこの言葉よりも温みがあるような気がする。


「あ、そうだ!何食べますか?って言っても大したものは作れないんですけど…。」


ピンポーン…


あたしの言葉を遮るようにチャイムが鳴った。