三つ目は『あ』と全く同じ口。だけどきっと、『が』って言ってる。
 四つ目は口をきゅっとすぼめる。同じ口にして息を出す。『と』と。

 そして最後は海理の唇が動くのに合わせて旭も声に出した。

「『う』!ですよね?」

『はい』のサインはにっこりと微笑む笑顔。

「あ・り・が・と・う。ちゃんと伝わりましたよ?でも、さっき書いたメモを見せてくださってもよかったのに…。その方がラクですよね?」

 旭がそう言うと、海理がペンを走らせた。

(…ちょっと長いこと、書いてるみたい。)

 雪城さんがぱっと顔を上げてあたしにメモを見せる。そこには…

『確かに使い回した方が楽ではあります。
でも、僕は大切な言葉を自分でちゃんと伝えたいんです。僕の言葉を読み取ってくれてありがとう、旭さん。』
「どういたしまして!って言うのもなんかヘンな感じですが。あ、『さん』はいらないですよ。呼び捨ててください。なんか『旭さん』って呼ばれると変な感じ。」

 そう言うと彼は音もなく笑った。そして

『それじゃ、旭。』

と唇だけでそう言った。