ブルーの瞳が哀しげに揺らめき、アメジストの瞳を捕えていた。



「哀しまないで、アラン様。わたしは、在るべき世界に戻るの・・・家族の元に帰れるの・・・これは喜ばしいことよ?だから、喜んで?いつもみたいに優しく微笑んで?」


頬を撫でながらじっと見つめた。

アランはエミリーの顔を見つめ、決して目を離そうとしなかった。



「何を申す・・・こんなに辛いのに、微笑むことなど出来ぬ・・・君の在るべき世界・・・ここでは駄目と申すのか?君の在るべき場所は・・・私の隣では、駄目なのか」



「お願い、分かって・・・アラン様、この世界に、この国に、わたしは元々存在しないの・・・ここは、わたしの束の間の夢の世界のようなものなの」




「国に帰ると申すのか?君の家族の元に―――」




――君は・・・もう二度と、二度と会うことのできない場所に、行くと申すのか。



迎えにも行けぬ場所に―――


アランは言葉を継ぐことが出来なかった。


声に出してしまえば、無様にすがりつき“傍にいてくれ”と叫んでしまいそうだった。


或いは、そうすれば、君は思い留めてくれるのか・・・。



大きな手で強く捕まれ、重かった肩が軽くなっていく。

武骨な手がゆっくりと離れていき、大きな掌が強く強く握り締められた。

あまりにも強く握られているため、プルプルと震え、爪がくい込んで血が滲んでいた。


書籍室の天井を見上げ、ブルーの瞳が震えながら閉じられた。



―――今日という日が、まさかこんなことになるとは――――


これでは告げようと思っていたことも、君にしてあげたいと思っていたことも、もう、何も出来ぬ・・・。

アランはポケットの中の銀の小箱を手で探った。


これも、渡せまい・・・


アランの心の中には出逢った頃からの想い出が走馬灯のように流れていた。


思い出されるのは、笑顔のエミリー。

食堂のテーブルの向こうで楽しげに話す姿。



抱きしめるといつも、身体の力を抜いて身を任せてくれた。


それが嬉しくて堪らなくて、愛おしいと思った。



一生をかけて守りたいと思った。




だが・・・思えば、ずっと君は、帰りたいという想いを抱いておったな・・・。




その機会が今あるのに、私の我儘で潰してはならぬ―――



それが君の為ならば、私は―――