微睡んでいると、頬があたたかいものにフッと覆われたかと思うと、髪がすうっと引張られた。

そういえば、シャルルはいつもこうしてベッドの上に散らばる髪で遊んでいたっけ。髪が傷むからダメって、何度も言ったのに。

「ん・・・ダメよ。シャルル、髪で遊ばないで・・・」

頭を少し動かして、悪戯っこくじゃれている手から避けるように髪を離すと、シャルルは遊んでいた手をすっと離して、しゅんと大人しくなった。

―――イイコ・・・。今日はめずらしく素直ね?いつもはこうすると、却って喜んでじゃれてくるのに。

ごめんね、遊んであげたいけれど・・・まだ眠いの。

重い瞼を閉じたまま、手探りでシャルルの体を探した。布団の上を探っていくと、さっき手繰り寄せたクッションに手が当たった。

まどろみながら端っこを掴んで再び眠りに入るエミリー。

すると、再びあたたかい何かがそっと頬を覆ってきた。


「・・・リー」


―――ん・・・なぁに、シャルル・・・。そんなに遊んでほしいの?

もう少しまっ・・・っ―――!?

そう言えば・・・シャルルがここにいるはずがない。だってシャルルは―――

・・・違う。これは―――わたし、これが何だか知ってる。

この、少し堅いけれど優しく肌に触れるもの。

いつもわたしに幸せな気持ちをくれるもの。

でも、まさか。違うわ・・・こんな時間に、ここにそれがあるはずがない。


「・・エ・・ミリー」

これはアラン様の声?どういうこと?

不思議・・・なんだかとても近くで聞こえる。


「エミリー」


「え・・・!?」


ぱっちりと開かれたアメジストの瞳。映ったのは目の前にある紺色の奇麗な布。

―――これって。うそでしょう?まさか・・・。

そぉっと見上げると、ブルーの瞳が困惑の色を浮かべてじっと見下ろしていた。


「アラン様!?あ・・・あの・・・」

「・・・おはよう。エミリー」

「・・・・・?」

状況がまったく掴めない。ぼんやりとしていた頭が一気に目覚めていく。

一体何が起こっているの?

目の前の奇麗な模様の入った紺の服を呆然と見つめた。


・・・わたし、今、何をしたの?えっと・・・シャルルのしっぽを掴んだような―――まさか・・・!?

すーっと頬が青ざめていく。

どうしよう・・・わたしアラン様の髪を―――

寝起きの悪い自分が恨めしい。怒っているかしら。

エミリーはもう一度アランをそぉっと上目遣いに見上げた。


「エミリー、すまぬ。もう皆が起き出す時刻だ。大変名残惜しいが、私はそろそろ寝室に戻らねばならぬ。良いか?」