「あら?」
 田辺さんが私に気が付いた。



 私はあわてて近づく。

「いらっしゃいませ」


「あなたはこの前の子ね。柏木さんと言ったかしら?」
 目を細めて上品に微笑む。



 でも。

 やっぱりその目は笑っていない。



 視線の鋭さが、この前よりも増したように見えるのは、私の思い過ごし?




「あ、はい、そうです。
 覚えてくださってありがとうございます。
 では、お席にご案内いたします」
 
 私は田辺さんの視線がなぜか苦手で、その視線をかわすように先導する事にした。








「こちらへどうぞ」

 窓際のテーブル席へと案内する。


「こちらがメニューです」

「ありがとう」

 すっと差し出された田辺さんの指は、シンプルだけど綺麗に彩られたネイルに飾られていた。


 唇には私が逆立ちしたって似合いそうもない、落ち着いた色のブラウン系の口紅。




 そして全体の雰囲気、1つ1つの仕草が完璧に『大人の女性』だった。