あの夢のせいでいつもより早めに出勤したので、仕事を始めるまでにはだいぶ時間がある。

 俺はぶらぶらと駐車場に向かった。



 さっきまでは晴れていたのに、段々と雲が厚くなってきていた。

「なんか、変な天気だなぁ」

 ぼんやり空を見上げている俺のおでこにポツリ、ポツリ・・・・・・。
 


 あわてて通用口へ戻った。

 だけど中には入らず、ひさしの下で雨の降る様子を眺めている。



 するとそこへあの美人・・・・・・いや、美猫が雨宿りのためにこちらへやってきた。

 俺に警戒しながら、雨の当らない端っこギリギリのところに座る。




―――この猫の写真を取ってから1ヶ月近く経つけど、状況はあんまり変わってないなぁ。


 濡れた毛並みを整える猫を見ながらそんなことを考えていたら、近づいてくる足音が聞こえた。



 小道の向こうから由美奈ちゃんが走りこんできた姿が見える。

「もう、何で急に降ってくるのぉ?!」

 バッグを頭にかざして雨除け代わりにしているが、庇いきれなかった髪が濡れて雫が伝う。


 頬に張り付いている幾筋かの髪が妙に色っぽくて、俺はドキッとした。



「あ、三山さんだ。
 おはようございます」

 ひさしの下に滑り込んできた由美奈ちゃんは、いつものように元気な笑顔を見せてくれる。

「え、あ・・・・・・。
 うん、おはよ」
 

 一瞬だけだったけど、さっきの大人びた表情が強烈に印象的で、いつもにも増して俺の心臓がドキドキしている。



 由美奈ちゃんの色々な一面を見るたびに、どんどん心惹かれてゆく。
 

 きっと、彼女以上に好きになる人はいない。



 俺の横で濡れた髪やバッグをタオルで拭いている彼女を見ながら、強くそう思った。