「それじゃあ、失礼します」

「うん。
 写真集に夢中になって、課題を忘れたらだめだよ」

「あははっ。
 気を付けますぅ」
 
 彼女は帰って行った。






 ぽつんと通路に1人残された俺。
 
 でも。

 今の俺はこの前と違って、心が弾んでいた。



「よかった。由美奈ちゃんに渡せた」
 
 胸の前で小さくガッツポーズ。


「これで由美奈ちゃんと写真集のことで会話が出来る」
 
 話のネタが出来た。

 

―――ほんの少しだけど、確実に前進できたよな。


 小さな1歩。

 だけど俺にとっては大きな1歩。

 大切な1歩。



 この小さな1歩が積み重なって、いつか由美奈ちゃんの心に届くといいな。



 その夜、久々に訪れた心の平穏を胸に、俺は眠りにつくことができた。