「え、……」
どん、と背中を押すような格好をしながら、話の要点を切り取って俺に伝えていく。
「そんな高いとこからじゃなかったんで、擦り傷程度の怪我だったんですけど」
殺してないんで安心して下さいね。
冗談交じりにエヘヘと笑う未來。こんな重い空気の中、俺は到底笑えそうになかった。
「それからは、その先輩が好きだった子からいじめられたり、突き落としたとこを見られた男に‘黙っててほしかったら付き合え’って脅されたり……色々最悪でしたね」
「森元さん……」
どう声をかけたらいいのか……大丈夫だよ、なんて無責任なこと言えるはずもない。
「本当は苦手なだけなんですけど……まぁ嫌いって言った方が楽かなって」
好きで苦手になったわけじゃないのに、彼女はなにも悪くないのに。
……今までどれくらい、辛い思いをしてきたんだろう。
「……勝手なこと言えないけど、希望は捨てないでほしい」
「え?」
「今は苦手でも、いつか誰かを好きになれる日が来るよ。必ず。だから、諦めないでほしい」


