相変わらずふくれっ面の遥登君と、なんとなく苛々しているような橘君。
「あ、あの……」
こんな雰囲気にしたいわけじゃなかった。これ以上険悪ムードになるくらいならもうさっさと言ってしまおうと口を開いた時。
っ……!
橘君の後ろで人事のように手遊びをしていた八木原君と目が合う。原因を作ったのはあなたなのに、と不満を訴えつつ目を逸らせないでいると、その手が止まる。
「……?」
何だろうときょとんとしてると、彼は開いていた指を軽く閉じ、人差し指だけを上に立てた。
その指を口元にあてがって。
―――……言っちゃダメ。
確かに口をそう動かした後、分かった?と首を傾げて見せる。ついでにウインクをひとつ。
ガタガタガタッ!!
「わ、大丈夫!?」
動揺を隠せるはずもなく後ずさったあたしの身体は後ろの机に突っ込む。痛い、って感覚なんてなかった。
なに、なに、……今のなに!!?
「さっきからどうしたんだよ、ほら、立てるか?」
駆け寄ってきた橘君が手を差し出してくれる。素直にそれに掴まり、震える足を何とか立たせた。
「あ、ありがとうございます……」
もうほんと、惑わすのやめて下さい……。


