鏡に映った自分を見つめる。パチンと頬を叩いて気合いを入れ直した。
大丈夫、ちゃんと話せる。
「よし、行ってきます!」
勢いよく部屋を飛び出したのはいいものの、次の瞬間あたしの動きはピタリ止まることになる。
「た、……橘君」
丁度同じタイミングで部屋を出たのか、橘君とばったりご対面してしまった。
「……」
っ。
橘君はあたしを見たまま、何も言わない。その眼差しは明らかに冷たいもので。
「あ、あの……っ」
どうしよう、まさかこんなに早く会うと思わなかったから言葉が出てこない。
頭が真っ白になって、謝罪の一つさえ言えなかった。
「いいって、もう」
橘君は深いため息の後、あたしから目を逸らしてそう吐き捨てた。
「え、でも……橘君、」
「今さら弁解なんか聞きたくねーよ。じゃあな」
鞄を乱暴に掴み直して、橘君はあたしに背を向ける。
追いかけなきゃいけないのに。話を聞いてもらいたいのに。
あたしの足は橘君の姿が見えなくなっても、動かないまま。
まるで焦る気持ちと不安が心をぐちゃぐちゃに荒らしているようだった。


