◇ side.Kota ◇



女が声かけてくるもんだから、てっきり逆ナンかと思って期待したら、そこにいたのはカナエだった。……チッ!


「こんなとこで何してたの? コータ」


自転車にまたがったまま振り向いた俺に、カナエが駆け寄ってくる。隣には彼氏らしき男の姿。


「ちょっと探し物。てか、お前こそこんな時間に何してんだ?」

「わたしは……」


カナエは頬を赤らめ、隣の男に視線を流した。


「彼とずっと一緒にいたんだ。ねーっ、橋本君」


何が「ねーっ」だ。

カナエの横でニヤニヤしてるのは、バスケ部の橋本。ちょっと背が高くてちょっと顔が整ってるからって、女にキャイキャイ言われてる、いけ好かない野郎だ。


「お前ら、ずっと一緒に……って、こんな時間まで何してたんだよ?」


俺はふたりが歩いてきたと思われる方向に、ふと目をやる。

そこには古くさい、良く言えばアンティークな3階建ての白い建物があり、看板にはチカチカ光る『ホテルJUN』の文字。

わが町で唯一の、休憩もできる宿泊施設だ。


「え、まさかお前ら……っ」


うろたえる俺を前に、カナエと橋本は視線を合わせて微笑み合っている。マジかよ、おい。